第4回 現実社会では「星」が表示されない――同じ試験なら公平なのか

同じ試験を受ける二人と異なる生活背景を示す黒髪の案内役 社会心理学
同じ答案用紙を配っても、そこへ至る人生まで同じにはならない。

この連載では、ガチャのレアリティを使って、努力・初期条件・公正世界仮説の関係を考える。星は人間の価値や能力そのものを示すものではない。

同じ教室で、同じ日に、同じ試験を受ける。

問題文も同じ。制限時間も同じ。採点基準も同じ。

これを見て、「公平な競争だ」と考える人は多いだろう。少なくとも試験会場での扱いは統一されている。

だが、同じなのは試験の時間だけかもしれない。

同じ問題用紙を配った瞬間、全員の人生まで初期化されたと思うなら、教育とはずいぶん高性能な魔法陣である。教室へ入る前の十八年間を消去し、家計も健康も学習環境も同一にしてくれるらしい。残念ながら、現実の試験会場にそんな機能はない。

そこへ到着するまでの条件まで同じだったとは限らない。

二人の受験生を並べてみる

一人目には、自分の勉強部屋がある。分からない問題を相談できる家族や教師がいる。必要な教材を買え、塾やオンライン講座も利用できる。生活費を稼ぐために働く必要はなく、体調を崩せば休める。もし不合格でも、翌年また受ける余裕がある。

二人目は、仕事や家族の世話をしながら勉強する。家では落ち着いて机に向かえず、教材費も負担になる。通学や通勤に時間がかかり、体調を崩しても予定を止めにくい。一度の受験料が重く、不合格になれば次の挑戦そのものが難しくなる。

二人が同じ試験を受けた。

一人目の点数が高かったとして、それだけで一人目のほうが努力したと言えるだろうか。

二人が同じ点数だった場合も、そこへ到達するまでに必要だった負担が同じとは限らない。むしろ二人目は、不利な条件を埋めるために多くの時間や工夫を使ったかもしれない。

もちろん、これは架空の例である。現実には条件がもっと複雑に絡み合う。一人目が努力していないとも限らず、二人目が必ず努力家とも限らない。

だからこそ、点数だけでは努力量を判断できないのである。

試験の点数は、その試験での正答数や達成度を測る。
努力量は、そこへ至る行動や負担を検討する。
支援の必要性は、本人が直面している障壁を確認する。

三つは別の評価であり、一枚の答案用紙ですべて測れるわけではない。

形式が同じでも、機会が同じとは限らない

同じ問題を出すことは、採点の公平性を保つ方法の一つである。

しかし、形式が同じであることと、機会が同じであることは一致しない。

例えば、階段しかない建物の入口で「全員が同じ階段を使えるから公平だ」と言っても、移動に制約のある人にとって条件は同じではない。

教育でも同じだ。授業料が無料でも、交通費、教材費、通信環境、学習時間が確保できなければ、利用しやすさには差が残る。制度が存在していても、情報を知らない、申請が難しい、相談先へ行く時間がないという障壁もある。

入口を同じ形にそろえただけで「機会は平等」と宣言すれば、その入口へ近づけない人が消える。

そして結果に差が出たあとで、「同じ機会を与えたのだから実力差だ」と説明する。

なるほど、制度の側には都合がよい。条件差を数えなければ、条件差は存在しなかったことにできる。

測らなかったものを「なかった」と呼ぶ。暗闇の部屋で目を閉じ、「何も見えないから何もない」と宣言するようなものだ。それで公平を証明したつもりなら、証明されたのは制度ではなく観察の粗さである。

現実の星は一つではない

ガチャなら、レアリティは★★★★や★★★★★と表示される。

現実社会では、家庭の所得、地域、健康、教育機会、使える時間、交通手段、相談相手、人とのつながり、再挑戦できる余裕などが、結果の横に一覧表示されない。

しかも、それぞれの条件は独立していない。

所得が低ければ教材や交通手段の選択肢が減る。通学時間が長ければ、学習や睡眠に使える時間が減る。健康上の問題があれば、働ける時間や収入にも影響する。相談相手がいなければ、利用できる制度を知る機会も失いやすい。

初期条件は、スタート地点に一度だけ置かれて終わるものではない。その後の努力の方法、続けられる期間、失敗から立て直す速度にも影響する。

だから、現実の人間へ一つの星を付けることはできない。

この比喩で星を使うのは、人を格付けするためではない。結果の手前に複数の条件があることを、あえて見える形にするためだ。

見えないのではなく、見ようとしていない

条件差は、完全に不可視ではない。

統計を調べれば分かることがある。制度の利用状況を確認すれば分かることもある。本人の話を聞かなければ分からない事情もある。

つまり「星が表示されない」とは、何も知りようがないという意味ではない。自動表示されないため、知るには手間がかかるという意味である。

その手間を省けば、結果だけが残る。

高得点だから優秀。
不採用だから能力不足。
低所得だから努力不足。
支援が必要だから自立心がない。

四行で世界を説明できた。おめでとう。複雑な社会を理解したのではなく、複雑な部分をすべて削除しただけである。

条件欄を閉じたままなら、世界は驚くほど単純に見える。

だが、その単純さは現実の性質ではない。情報を削った結果である。

同じ試験を受けさせれば、採点はそろえられる。それだけで、人生の条件までそろったことにはならない。

全員へ同じ物差しを渡しても、全員が同じ場所に立っている証明にはならない。

スタート地点を見ずにゴール順だけを称賛するなら、それは競争の評価ではない。先に立っていた者を、もう一度表彰しているだけだ。

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