主人公の財布だけが膨らむ怪盗団経済【P5考察】

ペルソナ5考察

注意:本記事は『ペルソナ5』『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』のゲームシステムを社会批評として読み替える非公式考察である。制作側の意図を断定するものではない。

命は共同、報酬は個人――怪盗団会計の黒い聖櫃を開ける

RPGには主人公の財布がある。倒した敵の金を飲み込み、世界中の店へ通じる小さなブラックホールだ。

敵を殺す。金を得る。武器と薬を買う。仲間全員の資産を一つの胃袋へ集めれば、操作は簡単。UIの神は効率を愛する。

普通のゲームなら、そこで思考を埋葬して終わりだ。

だが『ペルソナ5』は、その墓石へ「円」と刻んだ。

円。架空のマッカではない。東京の店で使え、日用品も遊びも飯も買える、俺たちの現実へ血管を伸ばす通貨だ。

その瞬間、ただの数字だった財布は所有権という牙を生やし、共同戦果を呑む魔獣へ変身する。

戦うのは全員。吞むのは主人公の財布。会計神は沈黙した

パレスやメメントスで死神の息を浴びるのは、主人公一人ではない。

  • 竜司も殴られる
  • 杏も魔力を使う
  • 祐介も刀を振るう
  • 仲間全員が命を賭ける

だが戦果は、操作上すべて主人公の財布へ落ちる。まるで重力そのものがリーダー名義で登記されている。

分配会議なし。会計報告なし。誰が何割という合意なし。あるのは「そういうシステムです」という天上からの絶対命令だけ。

「主人公だから」――万能詠唱、発動。

これを唱えれば、物語上の権力は説明不要になる。代表者の財布へ共同資産が吸われても、主人公補正という聖光で帳簿は読めなくなる。便利すぎて反吐が星座を描く。

装備を買っている? 安全靴を給与と呼ぶ冥府の会社か

反論の死霊が口を開く前に、先に首を掴んでやる。

「主人公は仲間の武器や防具も買っている」

その通り。共同資金を戦闘へ再投資している。完全な着服と断罪すれば、こちらの論理が先に腐る。

だが装備は任務経費だ。生活費の分配ではない。刀で空腹は斬れない。防具を煮込んでも夕飯にはならない。

会社が安全靴を支給した。よし、今月の給料はゼロだ。

そんな冥界企業が現実にあれば、労基署の扉が開く前に社員のペルソナが覚醒する。

戦うための刀を買うことと、戦った祐介が昼飯を食えることは別だ。二つを混ぜて「還元済み」と言うなら、共同体ではない。戦力だけを養殖する戦争農場だ。

祐介が血を流しても、財布の所有者は増殖しない

祐介を前線へ連れていける。刀を振るわせ、敵を倒し、報酬を得られる。

それでも「祐介の所持金」という概念は召喚されない。戦闘参加フラグは立つ。所有権フラグだけが墓の下で眠る。

主人公はその金で趣味も交際も自己投資もできる。祐介の装備を後回しにする自由さえある。自由。ああ、管理者だけに咲く美しい黒薔薇だ。

ゲームとしては正しい。だが物語へ電極を接続した瞬間、共同で稼いだ金を管理者の裁量だけで配る構造が痙攣しながら立ち上がる。

歪んだ支配者へ反逆する集団が、内部では会計規程すら持たない。

皮肉が完成しすぎている。悪魔でもここまで綺麗な円環は描けない。

財布はゲームシステムという名の密室――中で会計が死んでいる

勘違いするな。主人公を守銭奴として火刑に処す話ではない。制作側が搾取構造を意図したと霊視する話でもない。

これはシステムと物語の縫合痕へ悪魔の爪を差し込み、血が出るまでこじ開ける思考実験だ。

だが裂け目から這い出す怪物には、嫌というほど見覚えがある。

  • 共同作業の成果が代表者の口座へ入る
  • 配分は管理者の善意任せ
  • 会計は見えない
  • 仲間意識だけは要求される

見ろ。お前の会社、お前のサークル、お前の善意ある共同体。その地下にも同じ顔のパレスが脈打っている。

怪盗団最大の金庫は敵のパレスにない。仲間の戦果を無音で嚥下し、所有権ごと消化する、主人公の財布だ。


前回:怪盗団はなぜ祐介を助けないのか
次回:メメントスの金は誰のものか

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